いぬとまめのうすいホン

おさかなシロフォン

君は法螺貝奏者に囲まれて映画を観たことはあるか

君は応援上映に行ったことがあるか。

本来静かにあるべき映画館の中で、大声を出して光る棒を振り回すあれだ。
キンプリが大いに盛り上がっている時、私は典型的な社畜で、家やカフェに仕事を持ち帰り、遂に参加することは叶わなかった。


推しの名前を沢山の人と一緒に叫ぶ経験をしたことがあるか。
自分が定期的に出向くのはスキマスイッチのライブくらいだ。光る棒は物販に無い。推しの名前を、棒をふりふりしながら呼ぶ機会は、あまりない。


心の中でわ〜そわそわわ〜と自分自身に推しの話を囁く時代が続いた。オタクが居ない職場で日々が過ぎ、日常会話の中ですら滅多に推しの名前を口にする機会はなかった。

 

 

そこに光あれと機会を与えてくださったのが、スーツ姿の男が踊り狂い頭からポップコーンを撒き散らす映像を撮った人、耶雲監督である。

 

映画刀剣乱舞。先の監督がメガホンをとり、アニメのクレジットで名前を見かければ勝利が約束される小林靖子女史が脚本を手がけ、チケットがなかなか取れない刀ステの神がかった面々が出演する。
重大告知で実写化の文字を見ると、1歩どころか1キロ距離をとってしまう昨今の映画界において、あまりに約束された勝利である。

 

映画は最高の出来だった。見終わったら考察を書き連ねようと意気込んで劇場に潜ったが、あまりにも最高な特撮映像と推しの顔の良さに心の小学生が走り出し、おもしろ〜いと口を開けて周回するしかなかった。
考察ブログやふせったーは是非漁ってほしい。
三日月の真意だったり、不動くんの心のうちだったり、ふとした演出にも、もしかしてこんな意図が…と、各方面の深読みマンの叡智が結集している。
個人的には、映画での出来事を通して推しに語りかけるに至るあの人の場面が心を引きつけてやまない。


全国の審神者が気付かぬうちに自主周回を行なっていると、遂に応援上映の開催が決定される。
惜しむべきなのは、初回の全国同時応援上映に参加できなかったことだ。身体の20%を牡蠣に置き換える、楽しい旅に出かけていた。
同時応援上映の成功を受けて、全国の劇場がそれぞれ開催を告知する。
ここで、応援上映という大海原への処女航海を決めた。


せっかくならギュウギュウの劇場で棒をふりふりしたいと、都市部の混みそうな場所を選んだ。
花丸のイベントに持って行って以来、防災袋に入っていたキンブレを引っ張り出す。
いざ出陣である。

 


目論見通り劇場は満員だった。
客席を見渡すと、フィギュアやぬいを持ち込んでいる方も見受けられ、“本気と書いてガチ”なのが伝わってくる。
本編が始まる。応援上映超初心者は、他の人の腰巾着になって、追随して推しの名前を呼ぼうと目論む。
運良く、かなり応援上映に手慣れたグループが客席の中ほどにおり、客席を牽引して盛り上げてくださった。
いいぞいいぞ、推しの名前を呼ぶぞ〜と棒をふりふりする。


しかしここに致命的な落とし穴があった。

応援上映手慣れグループの中に、推しの同担の方がいらっしゃらなかったのである。
冒頭で脚〜〜!と一緒に叫べたものの、本編で推しが良い顔をチラチラさせている時に、絶妙な無言の時が過ぎる。客席を見ると同じ色にキンブレを光らせている人はいる。だが、推しへの想いを内に秘めまくる人が大集合していたのだ。推しの名前が出てこない。
腰巾着を目論んでいたごますりマンは、見事に玉砕した。私と同じく手慣れグループに同担が居なかった男性は、自らの推しを声に出して推していたのに。初回の照れが優って、自分の推しの名前を声に出せなかった。
偶然は重なり、上映開始直後にキンブレが壊れて推しの色が出なくなる。無言のアピールすら出来なくなってしまったのだった。


せっかく推しの名前を声に出せる機会が巡ってきたのに、声に出せなかったとは!と、布団に潜って布の大福を作り出す自分と、でも初回で自分一人で声出すのはムズイよなぁと布大福をポンポンしてくれる自分がぐるぐるする。
このままでは応援上映にトラウマが残りかねない。そもそも推しを声に出せる機会がまた巡ってくる保証はない。

 


ここで丸くなった布団に光が一筋差し込む。
高校野球なら甲子園、創作活動ならビックサイト。
劇場で推しを声に出す聖地、塚口サンサン劇場での応援上映開催決定である。
関西圏で衣食住を営んでいるので、なんか凄いらしいというのは風の噂で聞いていた。
調べると、全国から応援上映の猛者が単独行動も厭わずに集い、懐の深い劇場が昂ぶった者たちを優しく包み込んでしまうらしい。
前回は推しを心に秘めまくる一員になってしまったが、鶏白湯鍋が煮詰まったシメのスープのように濃い方々の中に飛び込めば、心の中の推しの名前を声に出しやすいのではないか。


運良くチケットが手に入った。クレカ決済で退路を断つ。猛者の中に飛び込むしかない。


会場に着くとまず凄いのが目と耳に入る。事前の注意事項でtwitterのタイムラインをざわつかせた、法螺貝である。
凄い音でブオブオ鳴っている。素敵な着物をお召しになった方も含んだ大人数がわらわら集い、法螺貝がブオブオしている。何も知らない人から祭りだと絶対思われている。でも祭りには違いないのだ。後で知ったが、チケットが手に入らなかったにも関わらず、愛知から法螺貝を鳴らしに飛んできた方もいらっしゃったらしい。凄い熱意だ。法螺の音は確かに引き継いだ。次はこちらが推しの名前をブオブオする番だ。


劇場に入ると、日本で一番綺麗な映画館のトイレが出迎えてくれた(初手でお手洗いに行っただけです)。凄く光っている。突然お腹が祭りになってもゆっくり映画を楽しめるように、生理用品も用意があるらしい。妙にアメニティが揃っている居酒屋以外で初めて見た。
最高のおもてなしを受け、前日に刀ステ虚伝のBlu-rayを見返し、推しへの想いが最高潮に昂ぶっている自分に、怖いものは何もない。
嘘です。興奮して神経が昂ぶったのか、応援上映に緊張したのか、お腹の腸がタップダンスを始めたのだ。
日本一綺麗な劇場トイレで、こういう事もあろうかと持ち歩いていたストッパを飲む。薬をやたら持ち歩いているのは、推しを意識してのことである。結果的に推しにお腹を救ってもらえた。


お手洗いを出ると廊下が続く。古き良き映画館を思い出し、無性に懐かしくなってしまった。ポスター、サンサン劇場での公開日らしき日付が入っているけれど、まさかお手製なのか。この廊下の通りを歩くだけでも価値がある。絶対また来よう。

 

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廊下を歩いていると、一際大きな法螺貝の音が響く。開場の時刻だ。であえ〜〜!!!

 

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もちも興奮して発光している。


席に着くと、前回の大反省を活かして両隣の方にご挨拶をした。互いの推しを自己開示する。これで暗闇の中、推しの名前を声に出す下地は整った。お互いにwin-winだと信じる。
キンブレをカチカチして待つ。すると、なんと自分の近くにあの法螺貝の方が座ったのだ!
法螺貝を持って来られる方なら、恐らくマジの猛者である。早速鶏白湯のスープが煮詰まってきた。良いぞ。
それだけでは終わらなかった。まさかのもう1人の法螺貝の奏者も自分の近くに座られた。推しのコスプレをされた方もだ!鶏白湯が超濃厚スープに進化する。最高だ。


劇場の支配人の方が舞台に上がる。
とても愛のこもった前説で、我々は拍手をしてキンブレを振り回す。
話の途中で、土足厳禁でしたね!と、舞台上で靴を脱がれる!!我々はさらに手を叩きキンブレを振り回す!!
拍手で支配人をお送りして、ついにスクリーンへの投影が始まる!!


応援上映で初めて名前を声に出した推しは、アレクでした。
予告が流れて、気付いたら声に出していた。応援上映の神はやはり、キンプリに宿っているのかもしれない。
シンくん〜!!と呼びかける声の大きさが、既に想像していた応援の声を逸している。
予告の時点で自分への勝利が約束されてしまった。


鈴木さんの応援上映の説明VTRが流れる。この時点で歓声がすごい。と思ったら、VTR終盤の出陣の祠の場面で、出陣部隊が映った瞬間、劇場は叫喚する。皆の推しがスクリーンに写ったからだ。私も黄色い声が出た。


本編が始まる。キンブレ持ち込み率が高いのか、本能寺が燃える前からスクリーンが赤い。
よし燃やすぞ!!


そして待ちに待った瞬間がやってきた。冒頭の超かっこいい自己紹介ムービーだ。


薬研さん。推しの名前を、思い切り声に出せた。
劇場全体が皆の名前を呼ぶ。とても楽しい。
前回どうしても声に出したかったけど出せなかった川のシーンで、「川だ!!!」と騒ぐことと、推しの手首が綺麗!と声を出すことができた。誰かの応援に頼って追随することなく、自分の声で。わかる!とも言って貰えた。そもそも川のシーン始まりは、劇場が待ち構えすぎていて、皆好きなように叫んでいたが。


様々な場面で、皆の声が聞こえる。ここ大好き…と、素で呟く声も聞こえる。
自分でも叫んでいたので良く分からなかったが、イッキコールの盛り上がりは、かなりの声量だったと思う。
戦闘でも皆が皆を応援した。心の小学生は思う存分走り回る。
エンドロールで口々に感謝の言葉が出る。ありがとうの気持ちを込めながら精一杯拍手とキンブレをふりふりした。
映画が終わる。すごい拍手だ。
上映終了とともにまた支配人の方が挨拶に来られた。大きな拍手を贈る。

 


かくして、推しの名前を声に出して推す夢は叶った。いつも心の内に秘めていたお名前を声に出すことは、とても楽しかった。


塚口サンサン劇場という、猛者が集う温かい場所で、本当に最高の体験をさせてもらえた。
勿論、他の劇場の応援上映も素晴らしい。ただ今日は、特別感をもって来場されている方が多くて素敵だったのだ。それぞれが特別な想いを胸に抱いて集うことで、塚口サンサン劇場を聖地たらしめているのかもしれない。
凄く楽しかったよ〜〜!!(キンブレふりふり)


感謝の気持ちを込めて、ポップコーンをお土産に買って帰る。
ポップコーン、モリモリ入って250円って安すぎませんか…